*tenor*
-パンプキンパイ-
あぁ、今日はハロウィンだったな。
そう思い出したのは、年中行事を欠かさず行う母親のせいだ。
『祭りは楽しんだ者勝ち』
という思考の持ち主で、一ヵ月に一度食費を省みない量の料理をふるまう。
「今日は友達呼んできなさいよ。」
そう言って、母は朝から忙しそうに大量の南瓜を茹でる。
これから何日、南瓜が続くだろうか…?
少しげんなりとしながら、俺は家をでた。
残念ながら、『秋晴れ』とは言えない天気。
薄暗く、雲のかかった空が少し恨めしかった。
今日はきっと、あそこには行かない。
日菜にも、会えないだろうなぁ…。
出来れば家に招待しようかと考えていただけに、残念だ。
今日は本当に嫌な日だ。
昼休み。
相変わらず暗い雲のかかった空。
ふぅ…と一つ溜息をついた。
「なんだ、今日はいるのか。」
「あぁ…。」
いつも何となく一緒にいた石井が珍しそうに話しかけて来る。
最近、昼休みになると直ぐに裏庭に行っていたから無理もない。
「彼女にでも振られたか? 」
石井はにやにやしながら俺の前に座る。
「馬鹿、そんなんじゃねぇよ。今日は曇りだから。」
「ふ〜ん…。」
訂正しても、石井はにやにや笑いを止めなかった。
「なんだよ…。」
少し気味悪いな…。
石井は憶測で物を言う奴じゃない。
なにか確信があるのだ。
「2年生の、山羽日菜先輩。」
俺はどきりとした。
石井の言わんとしている事が分かったからだ。
俺は思った事を顔や態度には出さない自信はあるが、それでこいつを騙せる自信
はない。
「日菜がどうした? 」
誤魔化すのは無理だ。
平静を装って、出来るだけ興味なさそうに答える。
「もう名前で呼ぶ関係? 先輩なのに、やるね〜。」
「だから違うって…。」
俺が呆れ半分で石井を見る。
と、石井の目線がおかしい。
教室のドアの方をみている。
なんだろう…?
「あの〜…八雲君いますか? 」
そこから覗き込んだのは、少し緊張気味の日菜だった。
上級生との区別は、上靴の色と校章の色でしかつかない。
しかし、だからこそみんな目敏い。
上級生だぞ…どういう関係?
皆がそれとなく、俺に注目する。
日菜は気にする様子もなく、俺を見つけると嬉しそうに手招きをした。
「お呼びだぞ。」
「分ってるよ。」
石井が冷やかしながらそう言う。
どうして此処に…?
上級生が1年生の階に来るだけでも、相当目立つのに。
うぅ……クラスの視線が痛い。
俺は足早に日菜の所へ向うと、先立って裏庭に向った。
裏庭は、一層暗く見えた。
「あの、ごめんね…呼び出して。」
裏庭につくと、日菜は済まなさそうに謝った。
「別にいいけど…何? 」
恥かしいのと嬉しいので、ついぶっきらぼうになる。
「あ…
パンプキンパイを一緒に食べようと思って焼いてきたの。」
日菜は力なく答えた。
俺が迷惑していると思ったのか、日菜は少し俺から離れた。
「……ごめん、ちょっと恥かしかったんだ。でも、パンプキンパイは嬉しい。」
俺ははっきりと、素直にそう言う。
迷惑じゃない、嬉しかったと伝えるにはこれが一番だと思った。
日菜は驚いたような顔をしたが、直ぐに笑顔になると、食べようと持っていた箱
を広げた。
教室に帰ると、案の定噂は広まっていた。
クラス中の視線が集まっていることが嫌でも感じ取れる。
でも、俺は敢えて何もなかったかのように振る舞った。
「おい、先輩なんだって? 」
「別に、ただパンプキンパイもらっただけ。」
さらりと答えると石井もふうん、と言って後は何も言って来なくなった。
俺は正直のところ、内心それどころでは無かった。
『今日、家でハロウィンパーティみたいなのがあるんだ。』
『へぇ…』
『母さんが友達も誘えって。来る? 』
『行っていいの? 』
『うん。放課後、昇降口でいいか? 』
『うん!! 』
俺の頭の中は、帰りのことと、明日からの生活の事で一杯だったから。
やっぱりまずかったか…?
迷惑かな…。
いや、嬉しそうだったよな。
パンプキンパイのお礼も兼ねてるし。
でも……
日菜にはそんな気は無い事くらい判っている。
当の俺も、(石井に言われて少
し意識はしたが)まだはっきり判らないほどだ。
第一今日は、日菜を"友人"として誘ったのだ。
うん。
母さんには何か言われるだろうが、兔に角あの南瓜を消費してもらわなくちゃ。
昇降口を並んで出た時、やっぱり視線は痛かったけど、
隣りで楽しそうにし
ている日菜を見ると、誘ってよかったと思えた。
お腹一杯になって、手土産も持って『あー楽しかった。』って言ってもらう。
それだけで、今はいいような気がした。
−−−−−−−−−−−
如何でしたでしょうか?
大変未熟もの故、イマイチ内容が…。
一応、一作目のtenorの続き(?)として書いたつもりなのです。
お母さん、もう少しちゃんと出してあげたかったり、
もう少し進展があってもいいかなぁ…と思いつつ、
それをしない――……出来ない未熟者です。
少しでも楽しんで頂けますことを願って…
from.攸サ夜