小鳥


夜更けの散歩道、一羽の小鳥に出会った。
最初は視界に入っただけ。
色褪せた羽根に特別惹かれはしなかったし、所詮ただの鳥。
そう思っていたから。

月明かりに照らされながら、その小鳥は歌っていた。
今まで聴いたこともないような、美しくも切ない歌を。
俺は一瞬で魅せられた。

そっと近寄ると、小鳥は驚き身を震わせた。
でも逃げなかった。
どうかもう一度聴かせてほしい。
俺が頼むと小鳥は答えた。

「貴方が望むのなら、幾度でも」


その日から俺達は毎夜逢うようになった。
待ち合わせ場所はいつも俺の部屋の窓辺。
小鳥は歌い、俺はその歌に合わせギターを奏で。
素人のギターは余りにも下手くそだったが、小鳥は一度もそれを馬鹿にしなかった。

小鳥は朝が訪れる度に空へ飛び立つ。
そして夜と共に帰ってくる。
いつからだろう。
朝が煩わしくなったのは。


ある夜。
小鳥が酷い傷を負い舞い戻った。
猫か野犬に襲われたのだろうか、折れた羽根を携えた見るも無惨な姿で。
手当てすれば大丈夫だ。
俺は必死でそう言い聞かせた。
もう手遅れだと知りながら。

涙を堪え目を伏せる俺を見て、小鳥は自身の死期を悟ったようだった。
そしてゆっくりと歌い始めた。
今にも消えてしまいそうな弱々しい声で。
憔悴した喉を震わせて。
最期の歌を終えた小鳥は、幸せそうに瞳を閉じた。


俺の手の中には静かに眠る小鳥が一羽。
冷たくなって、もう動かない。


ギターの弦を掻き切った。
指先からは血が滲む。
痛みなんてもう感じない。感じられない。
失ってから気づいてしまった。
いつの間にか抱いていた感情に。

永遠に叶わない想いは、音も発てず夜空に散った。


傍に居てくれ。

歌を聴かせてくれ。

他には、何も。

何も要らないから。