いつもと同じ朝。


 カ-テンの隙間から零れる太陽の眩しさに、少しだけ目を細めた。
 上半身だけ起こし まだ眠たさの残る目で辺りを見回す。
 いたって普通の、殺伐とした部屋。
 昨日と何ら変わりはない。


 ふと、いるはずのない彼を見た気がした。
 頭が一気に覚醒する。
 ただ瞬きをした瞬間に、消え失せた幻影。
 "まさか"はやっぱり"まさか"のままで。


 忘れるはずがない、あの雨の日。
 私の目の前で彼は帰らぬ人となった。
 震える手を私の頬に近付け、最期にひとつ切ない口付けを残して。
 "幸せになって"と彼が呟いた声は随分と色褪せてしまったけれど
 それは、未だ私の心の中にとどまりつづけている。


 ―…馬鹿ね、貴方がいなくちゃ幸せになんかなれないのに。


 自虐的に鼻で笑って、溢れそうな涙を必死で堪えた。
 彼がいない朝は決して慣れることはない。


 幾度となく軆を重ねあったこのベッドだって、2人で寝るのには狭かったはずなのに。
 目覚めた後は、彼が笑って頭を撫でていてくれたのに。


 今、私の隣りには誰もいない。



 小さく嗚咽が漏れ、堪えきれなくなって顔を布団に沈めた。
 
 叶うはずのない願いを、心の中で何度も何度も唱ながら。
 



 名前を呼んで。
 優しく微笑んで。


 寂しい、さみしい、サミシイ…




 伝えるはずの"愛してる"の言葉は、涙と共に落ちて、消えた






(20080411)