そもそもHalloweenとは万聖節(全ての聖人を崇敬する日だそうだ)の前夜祭、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭りのことを言うもので、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞなんて子ども染みたものじゃない。だから、どうしてこの日に飴やらチョコやらを配り回らなきゃいけないのか、私には全くもって理解不能なことなのだ。

「…という訳で、お菓子はないですよ。真岬クン」

そう言うと、目の前に満面の笑みで差し出されている手を軽く叩く。その後がっかりした顔を浮かべるだろうと盗み見た真岬の顔は、予想に反しその笑みを深く妖しいものに変えていた。内心ドキリとした。それは彼が悪いことを考えているときの顔だ。少なくとも私にとっては。

「それは残念。じゃあ代わりに悪戯だね、祐実チャン」

逃げなければと足を後退させたが時既に遅し、私の腕は真岬の手にしっかりと掴まれていた。こんな細い腕のどこに力があるんだと思うくらいびくともしない。

「私はこんな行事興味ないんだけど」
「祐実は違っても世間ではそういう日なんだよ。」

郷に入っては郷に従え、って言うでしょ。そう言った彼に不貞腐れた顔を見せれば、クク、と喉を鳴らすのが聞こえた。一体何が面白いんだよちくしょーめ。

「はい、じゃあもうおとなしくしようね」

軽く睨みをきかせる私を執り成すように近付いてくる彼の顔に「結局あんたはそれがしたいだけでしょ」小さく零せば、ちっとも驚いていない顔で「わお、ご名答!」と返ってくる返事。全くもって引く気はないらしい。もう真岬との距離は10センチと開いていなかった。
ああもう抵抗なんてするだけ無駄だわ。そう結論に至った私は結局、素直に目を閉じることになるのだ。

とびきり甘いのをお願い

(いっそ、痺れてしまう程に)
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(C)確かに恋だった
(200810).儚鵺麒