*tenor*









日だまりの中の庭。
ベンチに横になると、木陰の中で私の顔が斑模様になる。

ぽかぽかと、身体は日光浴。

昼休みに、誰もいない裏庭。

『日溜の庭』私は此所をそう呼んでる。

今日も、此所は私に優しい。

ただ、最近は私だけの場所じゃない。

ゆっくり近付いて来る足音。
私の横で、ぴたりと止まる。


「また、寝てるのか? 」

「うん。」

足音の主は心地よいテノールボイスで尋ねる。
薄れゆく意識の中で答える。
私は知ってる。
彼は、私の眠りを妨げたりはしない。

ただ、此所にいるだけ。

「今日も、いい天気だねぇ。」

「そうだな。」

呂律の回らなくなってきた口で話す。

二言三言話すだけ。
私は、彼の名前も歳も知らない。

ただ、最近は毎日日向ぼっこをしていると出会う。

彼も、この場所が好きなんだなぁ。
そんな事を考えて、眠りに落ちる。

この瞬間が、私は大好きだ。


『キーンコーンカーンコーン…』

遠くで鳴るチャイム。

嗚呼、もう終わってしまった。
うっすらと目を開けて、現実を取り入れる。


「あの…。」

私の頭の方向からの声。
彼が、珍しくまだ残っていた。

「はい? 」

とろんとした寝ぼけた目で彼を見る。

短い髪に、二重の目。
優しそうな口元。

そうか…日向ぼっこ仲間は男前だったか。

ぼんやりと、そんなことを考えた。

「俺、八雲影(やくも けい)っていうんだけど…そっちは? 」

彼は、モゴモゴと口を動かす。
私は、ふふふっと微笑んだ。

「私は山羽日菜(やまは ひな)。2年よ。」

ゆっくりと、意識がはっきりしてるく。

八雲君は山羽日菜、と何度か呟いた。

「すみません。俺1年で…タメ口きいてて…。」

八雲君は、本当に済まなさそうに頭を下げた。

私は、少しだけ悲しくなった。

「謝らないで…私、貴方の先輩じゃないから。それに、此所ではそういうの無し にしましょ? 」

私が言うと、八雲君はきょとんと目を丸くした。

そして、うんとうなずいた。
嬉しそうな微笑みと共に。

「名前は呼び捨てでいいよ。私は気にしないから。」

「じゃあ日菜でいいか? 」

少し恥かしそうに尋ねる彼に、勿論と微笑んだ。

暖かい日差しは、私達の上に降り注がれる。
今日も、これからも。