奇妙な少女





――カタン…

木のプレートをひっくり返す。
「Close」の文字が少し色褪せ初めていた。

「久々だなぁ…クロ、元気かな? 」

少年はポツリと呟いた。


――カランカラン

カウベルを鳴らし、店の中へ入る。


『いらっしゃい、』

「やあ、久し振り。」

『あら、シバ? 本当に久し振りね。』

シバと呼ばれた少年はカタンと椅子を引き、それに座った。

「今日もご機嫌だね、クロ。」

クロと呼ばれた声の主である少女の姿はない。
あるのは、黒猫の縫いぐるみのみ。

『久々に"Open"にお客様よ。嬉しくてつい、長居させちゃった。』

少女の声は華やかで、優しいものだ。
少年の顔が自然と緩む。

「長居って…程々にしなよ。騒ぎになると面倒だ。」

そう言う少年も、少女の嬉しそうな声を聞いて満更ではないようだ。

『そうね、気をつけるわ。シバは今からでしょう? 何時まで居るの? 』

気をつける、と言っていても、余り気に掛けてはいない様な口調で少女は言った 。

「うん、暫くは"Close"かな。お借りするよ、此処。」

少年は少女の様子にやれやれ、と言うように肩を竦めると、
鞄の中から犬の縫い ぐるみを取り出した。

『それじゃあ、私は退散するわ。』

ガタン、と奥で音がした。
まだ幼けなさの残る少女が現われる。
如かし、その眼は明かに、見た目相応のそれでは無かった。

「じゃあね。」

「うん。」

少女はスルリと少年の横を通り抜け、カウベルを鳴らさずに店を出て行った。


しんと静まり返った店の中、少年は、独り。


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「奇妙な時間」の続きです。
妙な三人称…。
一応、彼らは人間です。
正体は謎ですが(ぁ